自分にあった働き方を選ぼう!クライアントワークとインハウスデザイナーの比較
デザイナーとしての転職を考えている方や、これからデザイナーとして仕事をしていきたいと考えている人にとって、どのような企業で働くかということはもちろんのこと、どういったサービスや制作物に関わっていきたいのかを考えることはとても大事なことです。
一口にデザインといっても、グラフィックやウェブ、インターフェースやモーションなど、デザイナーがカバーしなければいけない仕事の範囲はとても広く、転職する企業によってどのような業務内容がメインになってくるのかが変わってくることも多いものです。せっかくクリエイターとして仕事をしていくのであれば、自分が熱量を持って働けるような、魅力的なサービスを扱っている企業で働いていきたいですよね。
本記事では、デザイナーのキャリアプランについての話題をするときによく悩みとして挙げられやすい、クライアントワークとインハウスデザイナーそれぞれの働き方の違いと、それぞれの仕事の魅力やメリットを、実際に制作とサービス運営の両方の現場で働いてきた著者が解説します。
この記事はこんな方におすすめ
- デザイナーを目指しているが、どのような働き方があるのかを知りたい
- クライアントワークとインハウスデザイナーという言葉はよく聞くけれど、実際にどんな違いがあるのか知りたい
- 制作会社で働いているが、インハウスデザイナーでの転職を考えているので、メリットとデメリットを知りたい
目次
- クライアントワークとインハウスデザイナーの違い
- クライアントワークを仕事にした時のやりがいと注意しておくべきこと
- インハウスデザイナーとして働くやりがいと注意しておくべきこと
- クライアントワークとインハウスデザイナー、どちらの道を選べばいいのか
- まとめ:自分に合った働き方を見つけて、後悔しない転職をしよう
クライアントワークとインハウスデザイナーの違い
クライアントワークとインハウスデザイナーとしての仕事、それぞれの具体的なやりがいやメリットを解説する前に、まずはこれら2つの働き方について、基本的な仕事内容を説明します。
クライアントワークというのは、企業や個人から依頼を受けてデザインを制作する働き方のことで、クライアントワークを行うデザイナーは、多くの場合は制作会社や広告代理店などで勤務することになります。特定の企業のサービスやプロダクトではなく、様々な依頼元から発注されるデザインを納品していくという流動的な働き方がメインになってくるので、会社員だけでなく、自営業やフリーランスとして活躍するデザイナーも多いです。
対して、インハウスデザイナーは、特定の企業に属しながら、企業が提供するサービスやプロダクトのデザインを担うという働き方がメインになります。従事する仕事はWebサービスからアプリケーション、プロダクトなどその企業が扱うサービスによってまちまちですが、基本的には会社が運営するサービスにまつわるさまざまなデザイン制作を請け負うことになります。こちらは会社員としての働き方がメインになってきますが、場合によっては業務委託などでサービスの運用を代行しているフリーランスの方もいます。
クライアントワークをメインでやって行きたいのか、それともインハウスデザイナーとしてサービス運営に関わりたいのかという二択は、デザイナーとしてのキャリアプランを考える際にどうしても直面しがちな問題です。そして、きちんとそれぞれの働き方や仕事内容の特徴を理解して転職先を選ばないと、「こんなはずじゃなかった」という後悔につながりやすく避けては通れない課題でもあります。
実際に仕事を経験してみれば、二つの働き方のやりがいの違いや苦労しがちなことはだんだん分かってくるものですが、簡単にキャリアチェンジを決断するのは勇気がいることですよね。そういう時には、周囲のデザイナーの体験談をヒアリングすることで、どちらの方が自分のキャリアプランに合っているのかということや、どちらの働き方にモチベーションを感じるかということを判断するのがおすすめです。
クライアントワークを仕事にした時のやりがいと注意しておくべきこと
純粋にデザインを作ることが好きで、四六時中デザインのことを考えているのが苦にならないのであれば、クライアントワークを仕事にするのがおすすめです。何といってもクライアントワークの1番の魅力は、特定のプロダクトやサービスに拘らずに、様々なデザインを制作できることであると私は考えているからです。
クライアントからの依頼を受けて仕事をするクライアントワークは、当然ながら「デザイン制作のプロ」としての仕事を期待されるため、常にデザインのトレンドをキャッチアップし続けたり、デザインクオリティを上げるためにスキルや知識を増やしていく必要があります。必要とされるクオリティが高い分、最初は苦しいかもしれませんが、実際に現場に出てデザインをするという経験をたくさん積むことができ、デザイナーとして成長する速度も速くなります。また、多様な企業やクライアントからの案件をこなす必要があるため、時として自分が今まで作ってこなかったようなターゲット層に向けたデザインや、扱ったことのないようなサービスのデザインを任せられることもあります。普段なら作らないようなデザインを作るためにはもちろん試行錯誤する必要はありますが、案件をこなすたびに自分のデザインの引き出しや知識が増えていくため、成長の実感が持ちやすいのもやりがいを感じるポイントです。仕事のやりやすさという側面で言えば、基本的にディレクターやエンジニアなどの他職種の人とチームを組んで動くことが多いため、一人で問題を抱え込まずにすむというよさもありますよ。
さて、ここまで私自身がクライアントワークを行う中で実際に感じてきた楽しい部分や魅力的な側面についてお話ししてきました。作る楽しさを実感できるクライアントワークですが、誰にでもおすすめできるという訳ではありませんし、あらかじめ念頭に置いておいたほうがいい注意点もありますので、ここからはクライアントワークを仕事にしたいという人のために、気をつけたほうがいい点をいくつか挙げておきます。
「クライアントワークをメインでやっているクリエイター」や「制作会社」という言葉を聞いたとき、皆さんはどのようなことをイメージするでしょうか。私が周囲の人からよく言われていたのは、「仕事がキツそう」や「勤務時間が長そう」といった、仕事量の多さに関することです。確かに、制作会社や広告代理店で働いている人といえば、定時後や土日もひたすら働いているイメージがあるかもしれませんし、確かに仕事が忙しいのは事実です。深夜に業務のメールをやり取りすることはザラですし、土日であっても大抵はデザインのことを考えながら過ごします。(深夜に活発に働きがちなのは、単にクリエイターが夜型なだけという話もありますが…。)そのため、このような働き方を聞いて、「自分には無理だ」と感じる人は、クライアントワークは向いていないかもしれません。制作会社での勤務であれ、フリーランスとしてやっていくのであれ、依頼人が存在する仕事は勤務時間が変則的になりがちなので、自分のペースで仕事をするのには限界があります。加えて、依頼された仕事を行うという性質上避けられないこととしては、「クライアントからの厳しいフィードバック」があります。すでにクライアントとの信頼関係が築けていればあまり問題になりませんが、初めて一緒に仕事をするクライアントや企業が相手の場合は、数回の打ち合わせのみで相手の求めるデザインを提出するのが難しいこともあります。結果として、理不尽とも思えるようなフィードバックが返ってきたり、修正方針に悩んでしまうようなことも起こります。このような経験はデザイナーとしてのスキルの糧になるため、必ずしも悪い部分とは言い切れないのですが、「人からあれこれとデザインを指摘されるのが耐えられない」という人は、不特定多数のクライアントと一緒に仕事をしなければいけないクライアントワークよりも、決まった特定の相手とのやりとりで完結する働き方を模索していくべきかもしれません。
インハウスデザイナーとして働くやりがいと注意しておくべきこと
一つのサービスやプロダクトを、ユーザと一緒にブラッシュアップして成長させていきたいという人であれば、インハウスデザイナーとして働くことがおすすめです。インハウスデザイナーは、短期間にさまざまな種類のデザインを制作する機会はあまりありませんが、自社のサービスやプロダクトを、実際のユーザーの声を聞きながらグロースさせていくことができる仕事です。
クライアントワークをメインにしていると、自分が手がけたデザインがリリース後にどうなっていくのかということを確認するのは難しいですが、インハウスデザイナーの場合はデザインを「育てる」ことが大きな仕事になるので、PV数やユーザ数などのさまざまな指標を追いかけながら、自分が制作したデザインがどのように利用者に受け入れられていくのかをチェックすることができます。必要であれば実際に自社商品を利用している人にアプローチをかけて、改善点を見つけるという動きもしやすく、自分が手がけたプロダクトに愛着を持っている人にとっては、とても魅力的な働き方と言えるでしょう。また、「特定の企業のデザイン担当」という立場上、サービスにまつわるさまざまな媒体のデザインを制作したり、誰かに仕事を発注したりといった幅広い役割をこなすことを求められるので、デザイン制作だけでなくオールラウンドに仕事をしたいという人にもおすすめです。仕事と生活のバランスを重視している人や、家庭を持っている人であれば、業務時間が変則的になりにくいのもメリットに感じられるポイントだと思います。
仕事が安定している側面もあり、一定の人気があるインハウスデザイナーの仕事ですが、こちらも実際に転職を考える時には注意しておいたほうがいいことがあります。特に、クリエイター気質のデザイナーがインハウスの仕事に葛藤を覚えると思う点は、インハウスデザイナーに求められるのが「デザインスキルではなく調整力やどれだけ他の部署とうまくコミュニケーションをとりながら働けるか」であるという点です。もちろん、その企業によってはデザインに理解があったり、デザインリテラシーが高いところもあります。しかし、経験上、インハウスのデザイナーに高いデザインを求める企業はそう多くないというのが現実です。そもそも、多くの企業では、高いクオリティを必要とするデザインや大きなプロジェクトは、「外注」という形でデザイン制作会社や代理店に依頼することがほとんどです。そのため、インハウスのデザイナーはそのプロジェクトに関われたとしても、外注管理や社内外の調整などといった仕事での関与になることが多く、クリエイターとして仕事をする機会はそれほどありません。また、「依頼を受けて仕事をする」クライアントワークと違い、インハウスの場合は「仕事を作りにいかなければいけない」ことも多くなります。仕事を作るためには、社内のさまざまな人に働きかけて予算や案件を取ってくる必要があるため、会社の動きや思惑を敏感に感じ取りながら立ち回る必要があります。
私自身もそうですが、デザイナーはこのような「管理」や「調整」といった仕事にそこまで魅力を感じない人が多いように思います。そのため、クリエイター気質の人がインハウスデザイナーになると、なかなか苦しい思いをしなければいけないのではないでしょうか。「一つのサービスに従事する」という仕事の性質上、デザインの幅を広げたり、デザインスキルを向上させたりといった成長も難しくなりますしね。何年も何年も同じサービスの画面を見続けなければいけないこともありますし、「本当に愛着を持てるサービスやプロダクトがある」という覚悟の決まったデザイナー以外は、自分が本当にインハウスデザイナーがやりたいのかどうか、しっかりと検討しておいたほうがいいと思います。
クライアントワークとインハウスデザイナー、どちらの道を選べばいいのか
さて、ここまでの話で、クライアントワークとインハウスデザイナーの二つの働き方について、ある程度のイメージを持ってもらえたと思います。それぞれに特徴のある2つの働き方ですが、それぞれに一長一短あり、考えれば考えるほど、どちらの働き方を選ぶべきなのか分からなくなってきてしまいますよね。
実際に、どちらの働き方も経験したことのある私の意見ですが、どちらか一方が優れているということはありません。確かに、制作会社での仕事は忙しくて大変でしたが、楽しい経験をたくさんさせてもらえましたし、反面、大きな企業のインハウスデザイナーとして働いていた時は、残業がない代わりにモチベーションの維持が難しいと感じることが多かったです。
会社の雰囲気や、その企業がどれだけデザインに価値を感じているかによって、デザイナーの働きやすさは大きく変わってきますし、自分が仕事をする上で一番大事にしているものが何かによっても選ぶべき基準は変わってきます。「どうしても決めきれない」という時には、思い切って両方の働き方を実際に経験してみるというのも手です。企業に入社せずとも、フリーランスや業務委託などで働いてみれば二つの働き方を体験することもできますし、経験だと思って思い切って転職をしてみるのも悪くない選択だと思います。
これは私の経験ですが、クライアントワークをしている人はインハウスデザイナーのことをあまりよく言わず、インハウスで仕事をしているデザイナーはクライアントワークをしているデザイナーをあまりよく言わないという傾向があります。そのため、「どちらがいいか」ということを周りに聞いても、返ってくる意見には少しのバイアスがかかっていることが多いです。あまり周囲の意見に振り回されず、あくまで自分にとって違和感のない働き方を大切にしてくださいね。
まとめ:自分に合った働き方を見つけて、後悔しない転職をしよう
いかがでしたでしょうか。
一言で「デザイナー」といっても、その働き方や、求められる振る舞いとスキルは異なってくるもの。その中でも多くのデザイナーが悩みやすいのが、クライアントワークをメインに仕事をしていくべきか、インハウスデザイナーとしてやっていくべきかという二択です。さまざまなデザインを手がけることにやりがいを感じるのであればクライアントワークを最初に始めるべきですし、作ることよりも育てることに喜びを感じるのであればインハウスデザイナーとして働き始めるのがおすすめではありますが、仕事内容は企業によっても違うものですし、その働き方がイメージ通りであるかどうかはある程度経験を積まないとわからないもの。
本記事で解説した内容は、筆者の経験や体験を元にして、できるだけフラットな目線で解説した特徴や注意点です。私も今まで転職で失敗した経験や後悔した経験は多いので偉そうなことを言える立場ではありませんが、私のリアルな実体験が、デザイナーとしてのキャリアに悩む方々にとって、「これからどうしていきたいのか」を考えるための一助になれば幸いです。
この記事を書いた人 : que
新卒で入社したのはシステム開発会社ですが、デザイナーになることを諦めきれず、未経験でデザイン制作会社に入社。その後、ベンチャー企業のアプリ開発や大手サービスのインハウスデザイナーなど、様々な仕事を経験して今に至ります。デザイナーといえばクライアントワークがメインの印象があるかもしれませんが、実際には幅広い働き方があるということを身をもって経験してきた筆者が、デザイナーがキャリアプランで悩みがちな「クライアントワークとインハウスデザイナーどちらを選べばいいのか」という問題について説明します。